
石川竜一 「 よ 」
このたびSAIでは、2026年6月20日(土)から7月11日(土)まで、写真家・石川竜一による新作写真展「よ」を開催いたします。石川のSAIでの個展開催は、2021年の「いのちのうちがわ」に続き2度目となります。前回の個展「いのちのうちがわ」では、人の存在しない自然の中へ深く身を委ねるなかで、次第に曖昧になっていく自己と外界との境界、そして狩猟生活を通して見つめた生命の内側に宿る美しさが提示されました。石川はこれまで一貫して「生」に向き合いながら撮影を続けてきましたが、本展では、街中の人々を撮影したポートレート写真で構成されます。 1980年代以降、ポートレート写真はシンディ・シャーマンをはじめ、トーマス・ルフ、ウォルフガング・ティルマンスらによって、現代美術の領域において大きく展開されてきました。そこでは、アイデンティティやジェンダー、ステレオタイプ、あるいは見る、見られるものとの関係といった主題が、一枚の写真を通して提示されてきました。 本展「よ」に登場する人物たちは、石川が街中で声をかけ、その時々で撮影した人々です。旧知の関係にある人物も一部含まれる一方、多くは石川と一時的に交差しただけの匿名的な存在です。作品に写し出されるのは、年齢、性別、人種もさまざまな人々ですが、衣服や佇まい、僅かな視線からは、それぞれの個性や背景が立ち上がり、鑑賞者の想像を喚起します。同時に、石川のファインダーを通して細部まで精密に映し出された写真は、被写体の意識の及ばない内面までも垣間見せるかのように感じられます。しかしその感覚は、決して明確な言葉へと還元されることなく、なお説明し尽くせない何かとして見る者の中に残り続けます。 石川は、写真というメディウムを通して、見るものの内側に立ち上がってくる感覚を、数理倫理学の存在記号である「ヨ」に因んで、ここで「よ」と呼びます。イメージが記号として氾濫し、それ自体が資本的な価値を持ち、社会的なヒエラルキーを形成していく現代において、それでもなお解釈し尽くされることなく、写真の中に立ち現れ続けるもの。 本展を通して、ぜひご高覧ください。