
流れのない空間―溜め込む人々
2026.08.03 - 2026.08.16 黄郁修/コウ イク シュウ 流れのない空間―溜め込む人々 《溜めこむ人々(Hoarders)》シリーズは2016年に開始し、長期にわたるフィールドワークを通して、数十名に及ぶ物を溜めこむ人々の居住空間に入り、その生活と背後にある心理状況を、写真を通して理解しようとしてきた。これらの空間は、単なる物の蓄積ではなく、それぞれの生きてきた経験を具体的に立ち表している。 観察とインタビューを繰り返し重ねる中で、私は二つの特徴を見出した。一つは「失うことに対する強い恐れ」、もう一つは「大きな不安感」である。 物を溜めこむことは、予測困難な出来事や状況に対応する一つの方法でもある。それと同時に、自らの存在や記憶をつなぎとめようとする営みでもある。こうした行為は多くの場合において、自覚的なものではなく、長い人生経験の中で徐々に形成されてきたものである。 物に囲まれた空間で長く生活している多くの当事者は、その状況を認識できない人もいれば、自身の状態に無力感を持っている人もいる。 このような生活は、その人自身の心身だけでなく、家族関係や近隣との関係にも次第に影響を与え、関係の疎遠や、さらには排除に至ることもある。 しかし台湾においては、メディアは溜めこむ行動を風変わりなものや異質なものとして取り上げる傾向が強く、その心理的・社会的な背景への理解を欠いている。そのことにより、溜めこむ人々に対する偏った認識が生まれている。 2013年に『精神障害の診断と統計マニュアル 第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM-5))』において、ためこみ症が正式に精神障害として位置づけられて以降、関連する議論は徐々に増えつつある。しかし実社会においては、依然として十分な理解が浸透しているとは言い難く、また介入そのものも困難な状況に置かれている。 本シリーズを通して、私は既存のメディアによる語りとは異なるかたちで、これらの空間とそこに生きる人々を見つめようとしてきた。それは単なる現象の記録ではなく、鑑賞者が空間と個人との関係についてあらためて考えるための試みであり、同時に、理解やケア、支援の可能性について問いかけるものでもある。 物をためこむ人々の置かれている状況は、心理的側面においても、生活空間のあり方においても、複雑で長い時間を伴う過程である。そのため、それらに向き合うには、より丁寧で持続的な理解と応答が必要とされている。